日中友愛エンタメ大使(自称)の小松拓也です。

エンタメコンテンツに何故中国が力を入れるのか?を日本も研究する価値がある

前回の記事では韓流ブームが日本だけでなく中国やアジア各地で起こったことに加え、映画や音楽などのコンテンツを通してファッションや美容や観光など、多岐にわたる韓国産業の繁栄に大きな影響を及ぼしている様子をお伝えしました。

ですが日本人の多くは韓流ブームのことは身近に感じることが出来ても、中国が韓国と同じように自国の文化産業に大きな力を注いでいる実態を知りません。

 

2010年代に入り中国は自国IP(知的財産権)産業へ巨大な資本を投下し、優秀なコンテンツの創出や自国文化産業がより深く国内外に浸透する下地作りにテコ入れを始めます。

かつて中国はその豊富な労働力を武器に世界の工場として世界中のメーカーの下請け役を担うような時期がありました。

ですが2008年の北京オリンピックや2010年の上海万博の時期を境に自国産業のオリジナルIP創出へと国の舵取りを変化させていくことになります。

 

安い労働力やコストで他国の製品を大量生産する方針から中国国産ブランドの創出と発展の方向性に対しより強いエネルギーを投下し始めたのです。

 

IT産業はその際たる例でしょう。

日本人はアメリカ発信のGAFA(Google、amazon、Facebook、Apple)などのプラットフォームを持つ企業に今や大きな依存を委ねる状態ですが、中国ではGoogleやFacebookは原則として使用出来ません。

 

その代わり自国プラットフォームである百度や淘宝網などの開発&発展に成功し、今や中国はアメリカと並ぶ2大IT国家と化しています。

 

世界時価総額ランキング2019で発表された企業別ランキングでもトップ10はアメリカと中国企業に独占され、その多くはプラットフォームを持つIT企業が占めています。

(ちなみに日本トップのTOYOTAは45位です。)

 

今後はAIやブロックチェーンなどの新しい技術革新が更なる時代の進化を促すと予想されることから、アメリカや中国のような巨大IT企業は今後更なる発展の可能性を秘めていると考えなくてはならないでしょうし、その中で日本人はどのように未来を構築していかなければならないかを国民一人一人が考えていかなければならない時代に突入しているように思います。

 

中国は近年エンタメ産業にも力を注いでいる

中国が文化産業に力を注いでいるのはITの分野に限りません。

近年、映画などのエンタメコンテンツの発展に対しても中国は急速な市場拡大を実現化させ、あと数年が経過すれば北米市場を超えて世界一位の映画市場国になると予測されています。

 

2018年の日本の年間映画市場は2225億円だったのに対し、中国は約5倍の1兆1億円(609.76億元)!

上のグラフを見て分かる通り中国の映画市場は過去数年、常に右肩上がりに成長しており過去10年で市場規模は5倍に急拡大しています。

 

また、こちらの上のグラフは中国の映画館のスクリーン数の推移を示していますが、国内の市場規模拡大に合わせる形で増加の一途をたどっており、現在は6万スクリーンを超えている状態です。

 

人口の違いはあるにせよ、日本全国の映画館スクリーン数が3561(2018年)ですから、中国の映画産業の伸び率がいかに勢いを持って成長して来たかが一目瞭然です。

 

中国は現在国産映画に力を注いでいる

 

 

続いてこちら(上)のグラフは2018年度の中国で公開された映画ランキングですが、トップ3は全て中国国産映画が占めています。

 

日本で2018年に最も高い興行収入を出した映画はハリウッド映画のボヘミアン・ラプソディ(104.6億円)でしたが、中国では近年ハリウッド映画よりも中国国産映画の方が高い成長の伸び率を示すようになって来ました。

中国でも以前はハリウッド映画が中国国産映画よりも高い人気を誇っていましたが、近年は中国政府のIP産業のテコ入れに呼応する形で国産映画の方が勢いを持つようになり出しています。

 

それをより色濃く表すデータとして2015年に「捉妖记」という中国国産映画が24億元(約397億円)という興行成績を叩き出しましたが、この数字はかつての中国の映画市場で最も高い興行成績でした。

つまりそれまでハリウッド映画が保持していた歴代最高興行収入を中国国産映画が塗り替える出来事だったのです。

 

翌年の2016年には日本でも「少林サッカー」でお馴染みのチャウ・シンチー監督の「美人魚」が更なる興行成績となる33.9億元(約561億円)を叩き出し、2017年には「战狼2」が56億元(約926億円)という歴代最高興行収入を立て続けに記録しました。

 

中国が国産映画の産業の活発化に力を入れているのは映画に投入される映画制作費からも読み取ることが出来ます。

中国の映画1本に投入される制作費の平均値は1.5〜15億円前後と言われています。

 

大作ともなると1本の映画制作費が50億円や100億円以上かけられているという映画も珍しくない状況です。

 

対して日本の商業映画1本の制作費の平均値はおよそ1000万円〜1億円前後ではないか?と言われています。

日本では10億円の制作費が投下されるような作品はなかなか存在しないのが実情で、近年ではシン・ゴジラやるろうに剣心シリーズなどが10億円以上の予算がかけられた作品だと言われています。

 

こういったデータからはより良質でクリエイティブな作品を生み出す基礎と下地が日本に比べて現在の中国映画市場には溢れていると考えられるのです。

 

中国が合作映画を大量生産している理由は時短のブランド化が目的か?

 

同時に現在の中国は世界基準のIPコンテンツに中国映画を育てていく為に様々な国々との合作映画の製作にも力を入れています。

 

染谷将太さんが主演を務めたことで話題になった日中合作映画「空海(制作費150億円)」や福山雅治さん主演のリメイク作品「マンハント (制作費約66億円)」などは日本人にも馴染みが深いかもしれません。

 

その他にも近年中国はアメリカや韓国、ヨーロッパの国々など様々な国々と合作映画を量産しています。

中国にとって諸外国との合作映画を量産することにはいくつもの戦略やメリットがあります。

例えば以下のようなものです。

 

・合作映画を量産することで協力関係国においても中国(俳優や監督、文化など多方面)の深く関わった映画を上映出来る機会を得られる。また、そういった作品を通して中国映画の海外市場開拓に繋げていくことが模索出来る。

 

・急成長を遂げている中国映画産業ではあるものの、ハリウッドなどの作品と比べるとまだまだクオリティや映画文化の成長に必要な下地が整っている状態ではない為、ハリウッドなどのスターや監督など、世界的に有名な映画人達とコラボレーションすることで話題性や認知度を高める狙いがある。また、一流の映画人達との合作を通して、時短で中国映画や俳優などの世界的なブランド力の強化を狙うことが出来る。(世界的ブランド化へ)

 

・現在、中国国内で年間に上映することが出来る配給映画には上映の上限数が決められており、およそ35本程度の作品しか外国映画を流すことが出来ない。だが、合作映画はこれに該当せず中国国産映画と同じ扱いで上映することが可能な為、巨大化した中国映画市場を狙うアメリカをはじめとした多くの海外の映画会社との合作映画が実現化しやすい。

 

コンテンツが他国へ与える影響は食文化や価値観、新しい概念にまで至る

映画というエンタメコンテンツのIP産業開拓に中国はこれほどまでに戦略的に巨大な資金を投下しながら世界のブランド化を目指して進んでいます。

それは何故なのでしょう?

 

そこには前回の記事でお伝えした「韓流ブーム」がアジアで巻き起こした映画や音楽といったコンテンツを通した「韓国産業そのもののブランド化」というイメージ戦略が紐付いています。(詳しくは前回の記事をご参考にください。)

そもそもエンタメコンテンツを通した自国文化や自国産業の輸出に最も成功したのはアメリカだと言われています。

 

かつての日本人は日本食をメインで食べていましたし、アメリカ発のハンバーガーやケンタッキーを日常的に食べる習慣や価値観さえ持っていませんでした。

実はこういった「ハンバーガーを食べる習慣や食文化」もハリウッド映画やドラマの中の俳優達が美味しそうに食事している様子などと共に少しずつ日本人の暮らしに浸透していったと言います。

 

似たようなことで「バー」は元々日本の文化ではありませんが、映画などのコンテンツを通して夜景の綺麗なバーで男性が女性を口説くといったシチュエーションや概念も「コンテンツ+概念+バー」という三位一体のようなスタイルで日本に輸入されたものです。

 

そしてそういった現象は日本だけでなく世界中で起こりました。

マクドナルドやケンタッキーは世界中ほとんどの国に輸出されていますし、コカコーラやペプシコーラを飲まない国は皆無でしょう。

 

特筆すべきは元々はその国に存在しなかった食文化や価値観、それを用いる際のシチュエーションや概念などの多くがアメリカのコンテンツを通して諸外国に浸透していったことであり、今では我々にとって当たり前の存在と化していることです。

そして一度文化として定着した産業は、その後も第三国において経済を回し続ける巨大なマーケットになっているという点です。

現在はインターネットの普及により情報が溢れるようになり、以前のような単純な情報戦略では簡単に狙った効果を上げにくくなっている時代に突入していますが、現代の韓流ブームが我々の目の前で起きたように、「エンタメコンテンツ+概念や文化+商品やサービス」といった自国産業のパッケージ式輸出戦略は海外の大きなマーケット開拓に繋がる可能性を秘めていることが分かると思います。

 

中国がIP産業に巨大な資金を投下して産業の活性化を図っているのにもそのような意図があるのでしょう。

 

中国の俳優のギャラが高騰化した背景

実はそういった背景の中、昨年世界中で話題になった中国のトップ女優、范冰冰(ファン・ビンビン )さんの脱税問題が起こりました。

 

出演した映画の報酬(1作品)の10億2千万円(6千万元)のうち、約8億円を脱税していたと話題になった事件です。

結果としてファンさんはその他の追徴税額も合わせて140億円以上を納付することになったと言います。

 

このニュースが流れていた当時、その金額のスケールの大きさに驚いたという日本人は沢山いたでしょう。

正直日本のトップスターでもこれだけのギャランティを芸能活動のみで生み出すことの出来る市場は日本に存在しませんし、むしろファンさんのギャラである10億円があれば、前述した通り日本ならば大作映画が1本制作出来てしまうような規模感なのです。

 

中国が映画やドラマなどの自国IP産業の拡大を図る裏側には、このようなタレントの報酬の高騰化を生み出している実態も存在するのです。

 

日本人も戦略的にコンテンツの輸出を考えて取り組む大きな座組みが必要か?

 

こういった中国の映画産業の発展や動向が現実として起こっている最中、我々日本人が考えていかなければならないのは「何故中国や韓国は国を挙げてまでエンタメコンテンツに注力するのか?」という問題です。

 

当然、それにはこれまでお伝えして来たような韓流ブームのようなパッケージ化された自国ブランドの経済圏を諸外国で作り上げるという目的があるのは言うまでもありません。

ですがもう1つ注視しなければならないのが今後の世界情勢やトレンドです。

 

 

現在、世界のトレンドはアメリカのGAFAをはじめとしたIT企業が大きな市場を集めています。

AIや5Gなどのテクノロジーが更に今後活発化されていくと言われる潮流の中で、GAFAやアリババなどといったアメリカや中国のIT企業は益々その勢力を拡大し、世界的シェアのプラットフォームを持たない国々との差を開いていく可能性もあるのです。

 

これらはどれも「情報をお金に変えている」企業ばかりですね?

現在は情報が最も高い価値を持つようになった時代に突入していると言われています。

情報の価値が現金化出来るようになったことで現在はブロガーやユーチューバー、アフィリエイターやインスタグラマーなどといった職業まで生まれるようになりましたし、良いコンテンツだと評価されるコンテンツホルダーは巨額の報酬を受け取ることも決して珍しいことではないのです。

 

つまり、こういった時代の潮流と合わせて考えてみても中国が国を挙げて良質なコンテンツの制作やその市場の開拓に取り組むのは至極当然のことであり、むしろ日本人は自国コンテンツの海外への輸出化にどれだけ積極的に取り組んでいるのだろうか?と足元を見回してみる必要性さえあるように感じます。

 

次回の記事では日本を取り巻く東アジアの環境の変化と日本が直面する諸問題に対してお伝えしていきたいと思います。

 

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